1968年にシカゴで起きたベトナム戦争の抗議デモ。そこで起きた警察とデモ隊との暴動を扇動した疑いで、7(8)人の政治活動家が逮捕された実在の事件。
実話とは思えないほど国側の訴えは理不尽なもので、市民からの大きな反感を買った悪名高い裁判。
数々のメディアで2020年のベストムービーの一つに選ばれ、アカデミー賞作品賞にもノミネートされた今作。(受賞は逃したけど)
難しい専門用語が飛び交いダラダラとつまらない作品になりがちな裁判映画を、見事にエキサイティングで感動的な作品に仕上げたアーロン・ソーキン監督さすが!!
『ソーシャル・ネットワーク』でもそうだったけど、台詞の応酬が面白い。当時の実際の映像や写真も所々使っていて、実在の人に本当に起きた事件なんだと実感する。
アメリカの大統領選に合わせてきたな!というメッセージ製も強い作品だったかと。
この裁判の背景には、ベトナム戦争や人種差別、資本主義の闇などアメリカの汚いところがこれでもかと盛り込まれている。 それでも、表現の自由を訴え続けた若者達の熱意に脱帽!
でも、これが有色人種相手の被告団だったら国は裁判さえ行わなかった可能性もあるだろうなーとか思ってしまったりもする…
作中には出てこなかった裁判の裏話とシカゴ7のその後についても掘り下げてみました。
びっくりな事実が満載でしたー!
あらすじ
1968年8月28日、イリノイ州シカゴで行われた民主党の全国大会ではベトナム戦争についての議論が交わされていた。会場近くのグランド・パークでは、戦争に反対する活動家・市民がデモのために集結したが、会場に押しかけようとした一部のデモ隊と警官が衝突し、暴動となった。多数の負傷者を出したこの暴動を扇動した容疑で、8人の活動家が告訴される。
キャスト
今作のキャストは超豪華の上に、みんな演技派だから一人ひとり称賛したい部分がたくさんある!そのためちょっと長めのキャスト紹介ですが悪しからず。笑
アビー・ホフマン【サシャ・バロン・コーエン】
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青年国際党(イッピー)の共同設立者。シカゴの暴動を先導した罪で告訴される。
『ボラット』の続編も公開(Amazonプライムのみ)し、ノリに乗っている彼。政治的な作品を多く制作・出演する俳優さんだし、今作でも超適役!ジェリーとのコンビも息ぴったり!
アカデミー賞助演男優賞にノミネートされてたけど受賞は逃したコーエン。でも個人的にはこのキャラ最高だった!
出演作:『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』、『マダガスカル』、『ボラット』など
トム・ヘイデン【エディ・レッドメイン】
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シカゴでの戦争反対のデモに参加した活動家の一人。
大人気のイギリス人俳優。今作もエディが出てるから観たって人も多いはず!完全に役になりきった、覚悟を感じる演技は相変わらず。
出演作:『リリーのすべて』、『博士と彼女のセオリー』、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』など
ジェリー・ルービン【ジェレミー・ストロング】
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アビーと共にデモに参加したイッピーの共同設立者。
作中ですごくいい味だしてたキャストの一人。コメディ作品を中心に活躍中のアメリカ人俳優。
この作品が重過ぎず仕上がったのは、コメディ要素をになったジェリーとアビーのコンビがいたから。
出演作:『ザ・ジェントルメン』、『サクセッション』など
レニー・ディヴィス【アレックス・シャープ】
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トムと共に抗議活動を行なっていた反戦活動家。
ブロードウェイを中心に活躍しているイギリス人俳優。
活動家といえば血気盛んなイメージだけど、オタクっぽくて大人しい性格のレニーを好演。
出演作:『The Curious Incident of the Dog in the Night-Time(ショー)』
ボビー・シール【ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世】
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ブラックパンサー党を結成した公民権運動の指導者。演説のためにイリノイ州に4時間滞在していただけだったが、殺人容疑までかけられ逮捕される。
最近の活躍がめざましいアメリカ人俳優。
法廷でのボビーの扱いは本当にひどい。理不尽な扱いにも勇敢に立ち向かうボビーの姿は凛々しい。
出演作:『ブラックミラー』、『ウォッチメン』など
リチャード・シュルツ【ジョセフ・ゴードン・レヴィット】
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対”シカゴ7”、アメリカ合衆国側の検察官。
若くして本件の検察官に任命されつつも、本人は被告への同情が隠しきれない複雑な役所。 個人的に大ファンのジョセフ・ゴードン・レヴィット。真面目でお堅い役柄がよく似合う。
出演作:『インセプション』、『ダークナイト ライジング』、『スノーデン』など
ウィリアム・クンスラー【マーク・ライランス】
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”シカゴ7”側の弁護士。
ナイトの称号を持つイギリス人俳優。
主張しないけど確実に存在感を残すこの人の繊細な演技は相変わらず素晴らしい。
出演作:『ブリッジ・オブ・スパイ』、『ダンケルク』など
ジュリアス・ホフマン【フランク・ランジェラ】
今裁判の判事。
アメリカの超ベテラン俳優。
悪びれる様子もなく理不尽な判断で裁判を進める憎たらしいホフマン判事の演技素晴らしかったわ。
出演作:『ドラキュラ【Blu-ray】 [ ゲイリー・オールドマン ]』、『フロスト×ニクソン』など
作中にない事実【ネタバレあり】
スピルバーグが監督の予定だった
2007年にアーロン・ソーキンが脚本を作成。監督にはスティーヴン・スピルバーグの名前が上がっており、サシャ・バロン・コーエンの出演が決まったと言われていたけど、当時全米脚本家組合がストライキを起こしていた関係で製作が延期。結局スピルバーグ監督も降板となり、監督が決まらないまま製作ストップ。
約10年後の2018年、アーロン・ソーキン本人が監督として製作を再開するが、製作費の関係で製作が中断することも。その後なんとか配給先が見つかり
度重なる俳優陣の変更
製作費を抑えるために俳優の変更が度々行われた今作。
スピルバーグ監督になる予定だった当初、ボビー役はウィル・スミス、トム・ヘイデン役には今は亡きヒース・レジャーがキャスティングされる予定だったけど、制作の中止と監督の交代で無しに。
その後、アーロン・ソーキン監督の製作が決まってからは初期からキャスティングされていたサシャ・コーエンとエディ・レッドメインの出演が確定。ジェリー役にキャスティングされたカナダ人コメディアンのセス・ローゲンの代役にジェレミー・ストロングが決まり、その後今のキャストに決定したらしい。
シカゴ7(8)裁判関係者のその前とその後
この裁判に登場した被告人達はみんな政治活動家(革命家)だし、その後の人生も彼らは実際に一筋縄ではいかない波乱万丈の人生を送っていた!
アビー・ホフマン
ユダヤ人系の家系に生まれる。大学時代に学生運動に参加し、政治活動家となる。ジェリーと共に青年国際党(イッピー)の共同設立者となる。
裁判後、ウッドストックフェスティバル似てロックバンドThe Whoのステージを中断させ、ホワイトパンサー党(無人種差別を掲げる党)の党員釈放を訴えた。
晩年は双極性障害に悩まされ、52際で亡くなっている。死因は薬品の大量摂取による自殺とみられ、遺体のそばには200ページにわたる遺書が残されていたそう。
トム・ヘイデン
1960年、ミシガン大学生時代にベトナム戦争に反対する学生民主主義団体SDS(Students for a Democratic Society)の設立に関わるり、卒業後も反戦活動や黒人の公民権運動に参加。シカゴ暴動の数年前、反対を押し切り戦時中にベトナムを訪れている。
作中にはクンスラー弁護士が暴動を先導した証拠となる録音テープが出てくるシーンがあるが、実際には「我々の血」(Let us make sure that if our blood flows, it flows all over the city)と言っていたらしい。
裁判の後はカリフォルニア州の議員として6度の当選。著作も数多く残している。
3度結婚(モテ男じゃん)しており、最初の妻は女優のジェーン・フォンダ(あの『グレース&フランキー』の!?)。彼女との間に生まれた息子のトロイは俳優。
2016年に76歳で亡くなった。
レニー・ディヴィス
裁判後、70年代にはスピリチュアルに目覚め教祖マハラジを師事しその後「ニューヒューマニティ」を創設。
ジェリー・ルービン
今作ではボケ担当なジェリーだけど、実際は学生時代に両親を失い弟の保護者役をしていたしっかり者。見た目はともかく、本人と一番かけ離れてたのはジェリー。
裁判後、70年代には政治活動から退き実業家として成功。ジョン・レノン、オノ・ヨーコ夫妻とも交流があったそう。アビーと「イッピーvsイッピー」と称してディベートをしたことがある。アビーが亡くなった際は葬式にも参列した。
1994年、カリフォルニアで交通事故に遭い入院。その2週間後に心臓発作で56歳で亡くなった。
ボビー・シール
公民権運動を率いたブラックパンサー党の議長。党は黒人の貧困層向けに無料の病院や、朝食の無料提供などを行なっていたが、FBIの監視対象となる。
シカゴ7裁判中で4年の実刑を受けている最中も同党員殺害の罪で起訴され死刑判決を受ける。が、世論の強い反対を受け異例の釈放。その後も、黒人の人権のために活動を続けたボビーは度々政府から標的にされ続けた。
2000年代に入ってからは、大学等で自身の経験について講義を行なっている。
シュルツ検事
若くしてアメリカの検事長になっていたシュルツ検事は、シカゴ暴動が起きた当時付近のヒルトンホテルに滞在中で実際にその様子を見ていたそう。
当裁判での検察側に対する市民の対応は酷いものだったようで、裁判後はすぐに検事を辞め個人弁護士に転身しているので、よっぽどこの裁判がトラウマだったのでは。笑
また、この作品についてもシカゴトリビューンのインタビューで言及していて、「トム・ヘイデンがベトナム兵の犠牲者の名前を呼ぶと言うラストのシーンは実際には無かった。完全にハリウッドの空想だね。」と語っています。いいラストだったからちょっと残念。
ちなみに、ボビーが法廷で猿ぐつわをされた有名なシーンについては「法廷が人種差別をしていると見せるため、弁護側によって仕組まれていたこと。」「それでも見ているのは辛かった。」とも。
このインタビュー面白い。
弁護団の中で唯一存命なのはシュルツ氏。82歳になったシュルツ元検事のインタビューはこちら。
www.chicagotribune.com
余談
正直、「シカゴ7」ていう呼び方はどうかと思う。一番ひどい目にあってるボビー・シールがその中にも入れてもらえてないのは、黒人差別なのかな?とも思ったり。彼だって他のメンバーと同じ思いでシカゴに向かっていたわけで、むしろこの8人の中で唯一現場にいなくて一番暴動に関係のない活動家の一人だったはず。(だからシカゴ7なのかもしれないけど)
逮捕後も他の7人は刑務所に入ってないのに、ボビーだけ裁判中ずっと刑務所だし(罪が殺人罪だからかも)。
当時は黒人人権活動家の暗殺が多数起きていて、マーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺もあった影響で黒人と白人の間にはかなり強い敵対意識があったはず。(詳しくはNetflixのドキュメンタリー『13th』を見ることを強くおすすめします!)
もしこのシカゴ7が全員黒人だったとしたら、この裁判はこんなに長引くこともなく即実刑。5年と言わず10年しっかり刑務所に送られてたでしょう。(いまだに黒人被告に対してのこの傾向は残ってるけど)
感想
今年見た映画の中でも一番良かったかもしれない。
大統領選挙を控えたアメリカで、黒人の人権運動(Black Lives Matter運動)があったり、警官の職権濫用についての議論があったりした今年、なんともパーフェクトなタイミングで公開されたと思う。
むしろ合わせて来たな、と。笑
お堅いテーマの作品なのにコメディ要素を折り込みながら面白おかしく描いていて、それでも心を突き動かされるような感動的な作品に仕上がってたのは、さすがアーロン・ソーキン監督。所々出てくる実際の映像や写真を見て、本当に起きたことなんだと思い知るし、だからこそストーリーにも引き込まれた。
キャストも豪華で、一人一人が存在感のある演技で作品を盛り上げてたと思う。
実際どうだったかはともかく、キャラクターがそれぞれ典型的なオタクだったり、血気盛んな革命家だったり、正義感の強い父親だったり、個性的で面白い。
イッピーは大麻吸ってピース唱えてるだけのハイな集団かと思いきや、ちゃんとデモの仲間を助けたりする姿もあったりして、すっかりシカゴ7に感情移入してしまいました。特にアビーとジェリーのコンビが最高。裁判の証人として次から次へとアンダーカバーの警察官やFBIが出てくるのは笑えた。卵の話するFBIの美女ダフネの下りとか(ダフネかわいい)。笑
実際は、判事が極端に検察側に有利に動いたのも、本当はもっと上の人からのプレッシャーがあったりしたんじゃないかなーとも思ったり。シュルツ元検事のインタビューを読んでても思ったけど、映画では活動家達の弁護側が「善」、国側の検察は「悪」として描かれているし、当時のメディアもそう報じていたんだろうけど、実際はお互い様だったんじゃ無いかなー。もちろん国の訴えは明らかに理不尽なものだけど、劇中のシュルツ検事のように、 個人的な意見は差し引いて頑張ってたんだろうな。笑
アメリカって「自由の国」と言われているものの、実は国や権力者が市民の権利を踏みにじろうとするケースが多々起きてる。どんな国でもあり得る話だけど
。相手がどんなに大きい力を持っていようが、民主主義のもとでは誰にでも発言権があるわけで、おかしいことはおかしいって言うべきだし、市民の声は政治に反映されるべき。その点今のインターネットの力は素晴らしいと思うけど、何十年も前にこうやって体張って頑張ってきた人たちがいたから今があるんだと思う。
評価
☆星 4.8 個☆
※リズム感のある展開に目が離せない。
※裁判映画なのにコミカルでエキサイティング!俳優人が一人一人映えていて、個性的なキャラクターが面白い。