探偵Lの映画ブログ

カナダ在住の映画&ドラマオタクが探偵気分で映画をレビューするブログ

【深掘り】Netflix『ステアケース〜階段で何が起きたのか〜』容疑者目線。最後までわからない真実…

                                            f:id:mobayuri:20200407035006j:plain

階段で発見された妻の遺体。これは事故?それとも殺人?

15年間にわたる法廷での戦いに密着。 全編英語だけど、実はフランスの制作チームによる作品です。

 

人によっては「だらだら長い話だなー」と思うかもしれないけど、その長さには理由がある!

事件の容疑者とその家族に密着した長編ドキュメンタリー。 

 

今作、完全に容疑者側のストーリーなので、実は色々と因縁のある作品でもあります。

詳しくは後ほど…

 

 

 

 

概要

見ての通り、実話です。

2001年12月9日、アメリカ・ノースカロライナ州ダーラムにある自宅で妻キャスリーンが階段から落ちて意識がないと通報。警察は最初から夫のマイケル・ピーターソンを疑うも、彼は一貫して無罪を主張。

 

f:id:mobayuri:20200409094149j:plain

キャスリーン生前の家族写真

夫婦には、息子2人クレイトン&トッド(マイケル友と妻の子供)、養女2人マーガレット&マーサ(友人夫婦の子供を養子に)、娘1人ケイトリン(被害者キャスリーンの連れ子)計5人の子供たちがいる。

 

検察は、死因を夫マイケルの暴行によるものだと主張するが、弁護団は階段から落ちたことによる事故であると主張。

 

実際の事件現場や遺体の写真などが出てくるので苦手な方にはオススメ出来ません。

全米で大きな話題となった事件を追った長編ドキュメンタリー。 

 

 

〜ここからネタバレあり〜

 

 

 

作中には無い情報

この作品はかなーーーり容疑者マイケル寄りの作品になってるので、ここではほとんど触れられていない情報を挙げてみます。

少し(いや、だいぶ)事件の見方が変わるかも。

 

被害者キャスリーンについて

夫マイケルとの出会いは娘同士が友達だったことがきっかけ。

頭脳明晰で、女性として初めてデューク大学のエンジニアリング学部に合格するほど。努力家でユーモアがあり人に好かれる性格だった。

娘ケイトリンは学生時代に出会った元夫との子供。

 

パソコン

事件があった夜、キャスリーンは職場にパソコンを置いてきてしまったためマイケルのパソコンを使用していたらしい。そこでマイケルが保有していたポルノや男娼とのメールのやり取りを発見していた可能性があるとのこと。キャスリーンに知られたとしたら殺害の動機になり得る。

 

息子・クレイトンについて

長男クレイトンは19歳の時、大学で爆弾を作成し逮捕。4年間服役している。

(作中で一瞬だけマイケルが触れるシーンあり)

この一件はマイケルに大変なショックとストレスを与えたと言われています。

 

一家の経済状況

当時ピーターソン家は借金などにより経済的に追い込まれており、生活費や子供たちの学費は主にキャスリーンの収入に頼っていた。

さらに、キャスリーンの勤める会社は経営が悪化していたため社員の解雇を続けており、キャスリーンも直属の部下にクビを言い渡すと言うなんとも辛い役目を任されていた上に、本人もいつクビになるか心配していたらしい。

この状況はキャスリーンにとって相当なストレスだったはず。

必死で家計を支えてる時に夫の浮気(しかも自宅で)を知ったとしたらかなり辛い。

 

被害者の体についた傷

首には絞められたような跡があったこと、体に身を守ろうとしてできたと見られる傷があったこと、手には本人の髪の毛が掴まれていたこと、などは作中ではほとんど語られてません。(親族・検察がちょっとだけ言ってたかもだけど)

ちなみに、現場の状態から救急の到着時は死後2時間以上経っていたらしい。マイケルそれまで何してたの?夜に2時間もプールサイドで犬と遊んでたの?

 

ドキュメンタリースタッフ

マイケルとドキュメンタリー制作のスタッフの一人は作品制作中の15年間交際していたらしい。(だから被害者側家族に取材しにくかったっていうのもあるだろうね。)

ちなみに、制作チームは15年間マイケルや家族に密着し生活を共にしていたため、記録として検察に撮影データの提出を求められるが、弁護団が制作チームを雇う形で協力し、要請を拒否。

 

フクロウ説

キャスリーンの遺体にフクロウの羽毛が付着していたために浮上した説。

夫妻が住んでいたエリアは人を襲うことでも知られているアメリカフクロウの生息地で、被害者の頭にあった傷はフクロウの爪による傷である可能性があるとのこと。キャスリーンが掴んでいた髪の毛も、頭を襲うフクロウを追い払う時に掴んだものかもしれないらしい。

フクロウによる被害は珍しいことでは無く、事件が起きた12月はフクロウの繁殖期で気性が荒い時期でもあったそう。

NetflixのYouTubeに詳細あり。*1

 

養女マーガレット

養女のマーガレットとマーサ、姉妹にしては似てない。息子のクレイトンとトッドは見分けがつかないほど似てるから余計際立つんだけど、長女のマーガレットが実はエリザベストマイケルの娘なんじゃ無いかっていう説もあるらしい。確かに鼻筋が通ってるところは似てるかもしれないけど、、、個人的にはガセだと思う。

 

 

勝手に捜査官(a.k.a 個人的な意見)

捜査官気取りで個人的な見解を数点。笑

 

通報の電話

キャスリーンの死因は「失血死」。作中の現場写真を見たらわかるかもしれないけど、あれだけ酷い状態だったら発見した時点で階段から落ちたってよりも誰かに襲われたって可能性を考えないかな?自然に囲まれた大きな家だし、お金になりそうな芸術品もいっぱいあったから泥棒が入ってもおかしくないし。救急に電話した時「妻が階段から落ちた!」と言い切ってることに若干の違和感。 

 

エリザベスの事故

養女達の母親エリザベスの件はどう考えても怪しい。養女達が完全に事故だって信じてるからそんな気がしちゃうんだけど、こんな偶然あるかな?本当に無実だとしたら不運過ぎるけど、この手の「偶然」は信じられないんだよなー。

(でも養女達からしたら、大好きな育ての父が実の母殺してたって言われたらもはやアイデンティティ・クライシスだよね。彼女達にしてみれば、ここで父のこと疑ったら家族みんな(兄達も育ての母も)失うことになるし、無実を信じることしか出来ないかも。)

当時、現場の血痕について記録が無かったのは、死因が「脳卒中」って判断さたから現場の状態を記録する必要は無いって判断されたからってこともありそう。元妻のパティだけ出血は見られなかったって言ってるけど、検死で頭に傷が見つかってるわけだから普通に考えたらある程度出血してるはず。

 

凶器

検察側はずっと金属の棒(火かき棒?)が凶器だって言い続けてたけど、ステアケースそのものだったってことはないかな。殺すつもりならあんな頼りない棒使うよりも、階段の角に頭打ち付けた方がよっぽど楽に殺せる(表現が残酷)と思う。

専門家が傷口が階段の淵に当たったことを示してるっていうなら、階段を狂気として使ったってこともあり得る。アリエル。

 

 

感想

この事件、聞いたことはあった。

初めて事件を知ったときは「絶対夫が犯人だろ。」って確信してたけど、このドキュメンタリーを観始めてから少しずつマイケルに同情。笑

 

マイケルの密着ドキュメンタリーだから仕方ないんだけど、作品としてマイケル側のストーリーに偏り過ぎてた。かなり。

撮影期間が長いし、マイケルと弁護団に密着してるから仕方ないかもしれないけど、この作品だけ見て、いろんな「不都合な真実」を知らなかったら完全にマイケルに同情すると思う。本作中の弁護団や専門家が言うことにも信憑性があったし、何より無実を信じる子供達のサポートが強くて、彼らのことを考えたら無罪であってほしいと思っちゃう!

 

裁判のシーンでも、検察側は彼の性的趣向について差別的な発言を使ったりして印象悪かったし(当時は2000年代だし、保守的な州・地域だからっていうのもあるんだろうけど)、捜査官ディーバーが虚偽の証言をしていたって知ったときも、それならマイケルの事件も冤罪だわって。笑(Netflixドキュメンタリー『化学者の麻薬スキャンダル』にもあったけど、司法関係者の汚職はほんと最低。)

 

ただ、この作品に欠けていたのは被害者への思いやりだと思う。

 

最後のエピソードで、被害者の姉キャンデスのスピーチは強烈だったけど、確かに頷けることばっかりだった。彼女のスピーチはすごく心に響いて、正直全編の中で一番印象に残ったシーンだったかも。

わたしは、ここで初めて被害者であるキャスリーンについては十分に語られてない、って気付いた。目が覚めた。

 

裁判の争点は「誰が」ではなくそもそも「誰か」によるものだったかどうかってことで、これって普通の事件よりも証明するのが難しいし、被害者の家族にしてみれば事件の内容が酷ければ酷いほど何かに責任を取らせたいはず。ちょっとでも怪しい人がいたら捕まえて欲しいと思うはず。

 

そう言う遺族の事情を考慮して作っても良かったんじゃないかなぁ。

この内容だと彼女達が「執拗に」マイケル側を攻撃しているように見えるけど、遺体の状態と彼の虚言癖を知ったら引き下がれない気持ちわかるよ。

 

この作品で、キャスリーンは「死体」としてしか登場してない。

劇中に家族写真はたくさん出てくるけど、キャスリーン個人としては傷口や死体の写真ばかりが印象的。遺族がOKしたんだろうけど自分が被害者だったらやだな。裁判までの間、事件が起きた階段は当時のまま(血まみれ)で、マイケルは事件があった家に住み続けてて、この現場を毎日見ながら生活してたのかと思ったらむしろ異様に感じた。

 

最後のエピソードで、マイケルが「キャスリーンにバイセクシャルを直接伝えてたらどんな反応しただろう。」って言ってたけど、裁判でキャスリーンは知ってて浮気も黙認してたって言ってなかったっけ??  笑

このシーンでかなりがっかりしてしまった。嘘ついてんじゃん、ここでも。

 

 

マイケルがキャスリーンについて話す様子を見てて愛を感じたし、家族の絆が強いのもよく分かった。小説家だということもあってか、どんな厳しい質問にも合理的でスマートかつ同情を買うような返答をしていたマイケル。

一方で弁護士ルドルフとは親友のような関係だったし、弁護団を上手く信用させてすり抜けていたってこともあり得る。アリエル。 

もうキャスリーンの死の真実は誰にも分からないんだ。

 

 

まとめ

f:id:mobayuri:20200410062611p:plain

娘ケイトリンが持つ母の写真はこれ1枚

個人的には80%(←ここ重要)マイケルが犯人だと思います。

 

なんともすっきりしない事件。

本当に無罪だったとしても最終的に裁判では有罪を認めてるし、有罪だったとしても元の求刑(無期懲役)よりずっと軽い刑期で済んじゃってる。

 

ただ、作品として『ステアケース』って題名付けるなら、もうちょっと中立に取材してもよかったんじゃないかなと。この事件のコアであるキャスリーンについてはほとんど語られないし、むしろキャスリーン側の家族は悪者のように描かれてる。この内容なら「被告人マイケル・ピーターソンと弁護士ルドルフの友情物語」とかにすればよかったのでは…笑

 

ドクター・フィル(アメリカの超人気心理学者)が、マイケルとの対面インタビューで「劇中、あなたが嘘をついているような態度が見られた。」とか「弁護団と非常に仲が良いのは不適切ではないか。」と言う発言をしてて、パッと見ただけでは分からない何かがあったのかもしれないとも思った。人の反応なんてそれぞれだし見た目じゃわからないよなー。

※このインタビューが見られるDr.PhilのYouTubeはこちら。*2

 

ちなみにこちらは当事件についてのマイケル・ピーターソンの著作です。 

 

 

評価

 

☆星 3.8 個☆

 

※観終わってすぐは4.5くらいあげたいと思ってたけど、やっぱり見解が偏りすぎてた。

※日本語字幕で、エピソードによってキャンディスを姉と言ったり妹と言ったり、弁護団が争点について話す重要なシーンで「いつ」のとこが「どこ」ってなってたり、翻訳ミスが多かった。あと登場人物の字幕も下の名前だったり上の名前だったりでわかりにくい。

※15年間にわたる膨大な量の撮影テープを編集して一つの作品にまとめたのはすごいと思う。裁判の準備から本番まで密着し、ここまで突っ込んだ取材をしてるドキュメンタリーはなかなか無い。容疑者目線っていうのも珍しい。

 

裁判のシーンとかはちょっと退屈だけど、ドキュメンタリーだからね。

時間がある人にオススメです。