探偵Lの映画ブログ

カナダ在住の映画&ドラマオタクが探偵気分で映画をレビューするブログ

Netflix『13 TH −憲法修正第13条−』司法制度と人種差別の闇 #BlackLifvesMatter

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2020年5月25日にアメリカ・ミニアポリスで起きた、警官によるジョージ・フロイド氏の殺害事件をきっかけに”Black Lives Matter”を掲げたデモ活動が盛んに行われているアメリカ。

 

 

カナダに住んでいるといえど、人生のほとんどを日本で育った私にとって人種差別を理解するのは難しい。

「人種差別」という問題のアイデアは分かるけど、日本人としては黒人と白人の問題という印象が強いと思う。

 

 

人種差別の辛さは、実際に経験したことのある人にしか分からない。

自分の見た目や出身受けるっていうのは、些細なことでもすごく嫌なもの。自分だけでなく身近な家族やコミュニティまで否定されたような気分になる。

 

 

司法制度や政治的権力に抑圧されてきたアメリカの黒人達への人種差別は「些細なこと」ではない。司法や警察に不当な対応を受け、命の危機にさらされることもある。

アメリカは奴隷制度のあった国。人間の階級を分けていたことがある国。

だからこそ、黒人はそこに存在するだけで誰かに憎まれる可能性があるってこと。

 

 

「黒人はギャング」「黒人は犯罪者」「黒人は危険」

そんなイメージが生まれたのはなぜか。

そんなイメージから黒人が長年解放されないのはなぜか。

そして今回のジョージ・フロイド氏の事件のように、警察と黒人の対立はどうして起きているのか。

その理由を理解するのに、この作品は非常に助けになった。

 

 

白人がアメリカを支配していた奴隷時代から、黒人へのイメージが歴史や政治に操作されてきた経緯とその理由を、歴史学者や活動家・法律家のインタビューを交えながら、アメリカが抱える刑務所ビジネスの闇と共に解説するドキュメンタリー。

 

 

日本人のわたしが、アメリカで黒人として生きていくことがどんなに大変かということの根本は理解出来る訳ない。

アメリカに住んでいても知らない人はいっぱいいるんだから。

当人でなければ、真に理解するのは難しい。

でも、考えるべき。現状を知るべき。話題にするべき。何が正しいか考えるとき。

見て見ぬ振りはもう出来ない。

 

 

私がこの作品を知ったのも、Instagramで「黒人差別を理解するのにオススメな作品」みたいな記事でこの作品を見つけたから。

もっと早く見ておくべきだったな。

 

 

 

 

 

 

概要

アメリカ合衆国の人口は全世界の人口の5%ほどだが、世界中の囚人の約4分の1はアメリカで収監されている。

約150年前に制定された憲法修正第13条は、「奴隷的拘束の禁止」を規定しているが「犯罪者」はその限りでは無い。

この抜け穴を利用した司法制度や政治戦略の標的にされて来た黒人たちと、巨大な利益を生むビジネスへ発展してきた刑務所経営の背景を

今も根強いアメリカの人種差別の問題を、奴隷解放後の歴史の流れと共に振り返る。

 

 

 

 

人種差別の今昔

印象的だった出演者達の言葉から振り返ってみます。

 

 

『白人達は祖先の選択でここ(アメリカ)にいる。黒人達は選択の余地無く誘拐され奴隷として連れてこられたという違い。』

彼らの意思でこの土地に来て、原住民を支配し(原住民達への不当な扱いはアメリカ・カナダ共にかなり酷い。また他の記事で改めて書けたらと思います。)アメリカを開拓した白人達とのスタート地点が違う黒人。

 

所有物として虐げられていた彼らを、白人もすぐには同等の人間として見れなかったはず。

 

 

『奴隷解放で労働力を失ったアメリカは、行く宛を失い放浪する黒人を「犯罪者」として収監し強制労働をさせた』

タイトルの『13TH』に暗に込められた当時の白人の支配欲が、結局今もずっと残っている。

奴隷解放後、今度は白人達の基準で彼らのために作られた法に則って「犯罪者」として自由を奪われた黒人達。

犯罪者は罰せられるべきだけど、誰かを犯罪者とする基準・法律に偏りがあったらそれには悪意があるとしか考えられない。

 

白人は「彼らより上」だと言う優越感と特権を手放せないまま今に至るんだろう。人種差別で得るものなどないと思っていたけど、黒人が権利を得ることで、白人の優越感は脅かされる可能性がある。

 

 

『「昔の人は有色人種に対して酷いことをしたものだ」と言うけれど、今も大した違いはない』

黒人の人権が無視されたことで起きる事件は後を絶たないが、特に最近では立て続けに黒人への人種差別的な事件を収めたビデオがSNSで拡散された。

・2月、公園をジョギングしていた黒人男性アマード・アーベリー氏が近郊で起きた窃盗事件の犯人と用紙が似ていたとの理由で白人親子に追い回され射殺された。

・5月、NYセントラル・パークの禁止区域でリード無しに犬を走らせていた白人女性を注意した黒人男性に対し、女性は警察に通報。「黒人に脅されている」と黒人への誤ったステレオタイプを利用した人種差別的な発言をした。

 

ここ数ヶ月で立て続けに起きた黒人の人権を侵害する理不尽な事件が、今回のデモ活動が今まで以上にヒートアップしている理由でもある。

 

 

#BlackLifvesMatter

この運動はSNSで広がったもの。

注目のインフルエンサーや活動家、インパクトのある投稿を集めてみました。

 

 

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今作の監督でもあるエイヴァ・デュヴネイ。

他にもネットフリックスで公開されている『ボクらを見る目』などの黒人差別をテーマにした作品を手掛けている。

 

 

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ノーベル平和賞受賞の人権運動家で牧師のデズモンド・ムピロ・ツツの言葉。

「不当な正義に対してあなたが中立な立場を取るなら、それはあなたが迫害者と同じ立場を取ったのと同じこと」という言葉。

 

 

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彼らの立場を真に理解出来なくても、味方になる事は出来る。

 

 

感想

 

黒人差別のデモを見てると「いつも黒人ばっかりだよなー」と思うこともあるんだけど、今作を見てその理由がよく分かった。

アメリカでなぜ有色人種、特にアフリカ系黒人への差別が深刻なのか。

その根本に何があるのか。

 

 

奴隷制度のことは誰もが知っているだろうけど、その後アメリカがどうやって「市民」として黒人を受け入れたのかは曖昧だった。(もちろん、それがスムーズに行かなかったから人種差別は残ってるんだけど。)

今まさに起きているような警察と黒人はどうしていつもこんなに対立するのかって言う事情についても、勝手に「黒人の犯罪者率が高いんだろうな」くらいにしか思ってなかったけど、そのステレオタイプは作られたものだったなんて、このドキュメンタリーを見るまでは思いもしなかった。

政治家や企業によって都合良く作り上げられた、黒人差別と搾取の構図がわかりやすく説明されていると思う。 

 

 

作中にも選挙対策のスタッフが、暗に黒人・有色人種を悪者にする戦略を立てていた証拠の音声も出てきたけど、特にインターネットが無かった時代はテレビや新聞で言われることが正しいと思うだろうし、政治家や有名人がこれが悪、これが善と言っていたらそんな気がしてくる。

そんな時代に、大半の国民と見た目が明らかに異なる有色人種をターゲットにするのは簡単だったはず。

 

 

見るに耐えない映像や写真も出てきて辛いけど、現実を受け止めるためには大事だと思う。

作品の中出てくる、その時代ごとの黒人讃歌が彼らの心境を物語っていて、特にエンディングに流れる曲は悲し過ぎて涙出た。

親や祖父母の世代からこんな扱い受けてたら、若者も将来に希望なんて持てなくなるわ。しかもその不当な扱いで投獄されることが大企業の肥やしになってるなんて。

 

 

企業と政府の癒着とか、利益のためになんでもする人たちって本当にいるんだね。

日本も絶対あるよなー、暴露されないだけで。

 

 

こういう問題提起的なドキュメンタリーを見てるといつも思うんだけど、アメリカって「自由の国」なんて言われるけど、実際本当に自由が保証されているのはほんの一部の富裕層だけだよね。

お金がものを言うのはどこの国もそうかもしれないけど、多民族国家ながら白人が権力を独占している国だから、経済的に満たされた白人以外、必ず何らかのハンデを抱えて生きることになる。

 

 

ジョージ・フロイドさんの事件をきっかけに、今話題にされているのは黒人の人権。

今作は今のこの状況を理解するにはとてもいいドキュメンタリーだった。

 

 

日本でも、人種のイメージはメディアの力が強いと思う。

日本の雑誌、テレビに出る外国人はほとんど白人。ハーフタレント・モデルもほぼ白人のハーフばかりが活躍している印象。

雑誌で「外国人風○○」と言うフレーズを見たとき、思い浮かべるのも白人ではありませんか?

有色人種は?他のアジア人は?見過ごされているもしくは軽視されているのでは?

 

 

その対象となる人の肌の色が濃ければ濃いほど、日本人には別世界のことのように感じるかもしれない。

でも、これが同じ日本人だったら?アジア人だったら?

同じ国に住んでいながら肌の色や出身のせいで人間として受ける扱いに差がある現状を、想像するのさえ難しいけど、「知ろうとする」だけでも違うはず。

 

 

人種差別を語るときどうしても白人が悪者のような言い方になってしまうけど、現在アメリカに残る法・政治システムが作られた当時、欧米を支配していたのが白人だったわけだから仕方ないところもある。

今やアメリカは、移民大国としてあらゆる人種が混じり合うことで成り立つ国になっているわけで、当時白人主導で作られたシステムにも多様化が求められて当然のはず。

このシステムで利益を得ている人がいる以上、ただ待っているだけでは変化は訪れない。

 

 

人種差別反対運動はただのSNSのトレンドであってはいけないし、今後ずっと、より一層議論されるべきだと思う。

アメリカなどの欧米では、奴隷制度の影響があるから黒人の人権が話題にされるけど、黒人だけ特別扱いというわけじゃない。

根本的なことは「人種で差別するのをやめよう」ってこと。(わたしも黒人から人種差別的な扱い受けたことあるし)

 

 

人種差別は他人事じゃない。

”Black Lives Matter”を謳った人権運動の真意は、白人vs黒人じゃない。

人種差別vsわたしたちだ。