探偵Lの映画ブログ

カナダ在住の映画&ドラマオタクが探偵気分で映画をレビューするブログ

【ネタバレあり】Netflixドキュメンタリー『キーパーズ』保守的なカトリックスクールが隠蔽を続けた衝撃の真実

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今まで見たいろいろな犯罪ドキュメンタリーの中でも、度を超えて重い内容の話だったかもしれない。

  

シスターの殺人事件についての話かと思っていたら、それだけじゃない。ボルティモアのカトリック教会をめぐる根深い闇についての話でした。

50年以上も隠蔽され続けた実態を辛辣に暴露したドキュメンタリー。

  

ボルティモアの司法や警察が汚職まみれで腐敗していることはトゥルークライムコミュニティ(aka 犯罪ミステリーオタク)の中では有名な話。そこにカトリック教会まで関わっていたとは。

  

ちなみに、

本編では凄惨な性犯罪の描写が出てきます。苦手な方は視聴の際十分気を付けてください。(もしくはインタビューは飛ばしたが良いかもしれない。)

 

 

 

 

概要

カトリック文化が根付く街、ボルティモアで1969年に起こった未解決殺人事件。被害者はキーオ高校の教師、シスター・キャシー・セズニック。当時彼女の教え子であったジェマとアビーは、50年近くたった今でも犯人を見つけるべく独自に捜査をしている。

キーオ高校の卒業生を通じて、1992年に告発された神父達の性的虐待疑惑とシスター・キャシーの殺人事件とのつながりが見えてくる。

 

 

〜ここからネタバレあり〜

 

 

 

 

感想【ネタバレあり】

人は権力に縋り付くあまりここまでひどいことができてしまうんだってことを痛感した作品。

誰よりも誠実で他人思いであるイメージの神父と教会組織の恐ろしい隠蔽体質が一人の若いシスターの殺人に結びついて行く。

 

亡くなったキャシーシスターは、生徒を守りたかっただけ。正しいことをしようとする人が握り潰されてしまう社会って本当に間違ってる!メディアはこういう実態をもっと報道すべきだと思う!

 

このドキュメンタリーではキャシーシスター殺害の容疑者まで名指しで暴露してかなり攻めた内容だし、この作品を機に犯人が捕まって欲しい!この隠蔽体質を変えるきっかけにもなって欲しい!

 

 

辛い告白

今作は特に見続けるのが辛くなるようなリアルで残忍な犯行内容が、被害者達本人のインタビューで詳細に語られている。それがもう想像を絶する内容。

カメラの前でインタビューを受けた被害者女性は本当に勇敢だと思う。防衛本能として良くあることらしいけど、彼女は自分で思い出せないくらい暴行の記憶を消し去っていたようで、話を聞いてるだけでも辛いのに、半世紀経っておばあちゃんになってもまだ思い出して泣き崩れるぐらいだから、その苦しみの根の深さが分かる。

 

後半に性的虐待の被害者達が議会で訴えるシーンがあって、もう80歳を超えたおじいちゃんが幼少期に受けた虐待について泣きながら訴えた姿が忘れられない。

性暴力って目に見える大きな傷は無いかもしれない。でも被害者は決して忘れない。精神的なダメージは傷痕のように決して完全に癒える事は無い。

 

 

ボルティモアの腐敗

ボルティモアはそもそも犯罪発生率が高い都市で、アメリカ全体の犯罪発生率の5倍と言われています。前述もしたけど、ボルティモア警察・政府機関の腐敗もかなり根深いらしい。

 

今回の事件が未解決な理由には、この腐敗体質が大いに関わっているはず。もちろん、ボルティモアの警察が全員ちゃんとした仕事をしていないわけじゃ無いけど、この事件に携わった警察関係者のインタビューを見ていて、彼らがどこまで正直に話しているのか疑わしい部分はある。

 

(教会と手を組んでいる疑いのある)腐敗し切ったボルティモア警察も検察も、被害者の訴えに何もしてない。当時、聖職者からの虐待について50件以上の告発があったにもかかわらず、逮捕されたのは1件。しかも、その1件は本人からの自白があったから。

はい?聖職者でも自分の罪を認めたのは1人だけ????はいぃぃぃ????

 

 

普通に司法のシステムを考えたらあり得ないけど、人が死んでるのにここまで知らん振りを決め込む人達の道徳心が理解出来ないわ。

システムを管理する立場の人が腐敗してたら、どんなに頑張っても一般市民は何も出来ないんだろうかっていう、もどかしさと悔しさで怒り狂ってしまいそう。(まじで)

 

 

聖職者の犯罪

 

当たり前だけど、こんな悪質な体勢がキリスト教会の典型じゃ無いって事は強く言っておきたい。

宗教的なことって、日本で取り沙汰されるのはカルトとかスキャンダルとかネガティブな話題が多くて、無宗教が一般的な日本人には分かりにくい。信仰を持つ人にとって、宗教は心の支えになるだけでなく、教会を通して人と地域との絆を深め流ことも出来る、大切な生活の一部でもある。

 

教会がこの地域のコミュニティに深く根付いていることは、被害者の行動からもよく分かる。

自分の受けた被害を訴えるために最初に行ったのは「教会」って言う。正直、この選択はちょっと普通じゃない。まず警察に行くって言うのが基本的な流れだと思うんだけど。

不安な気持ちから、まずは信用出来るコミュニティの人に相談したかったっていう気持ちからだったんだろうな。それを裏切られた時の失望は相当だったろうな。

 

聖職者はあくまで困っている人に神の教えを伝える人たちのはずで、弱い立場の人を操る権力を持っているわけじゃない。神父の洗練された神聖なイメージを権力として濫用したマスケル神父達。結局人間としてのエゴが何よりも大きくなってしまったんだろう。

 

彼らの行いは教会にとってかなり都合が悪かっただろうけど、「嘘」がキリスト教の大罪であることを無視して全てを隠蔽しようとしたボルティモア教会のやり方は異常。特に階級が厳しく分けられた教会組織の中で、お互いの立場を守ることばかりに執着した上層部の腐敗ぶりは根が深過ぎる。

 

この作品の中でわたしはずっと不思議だった。

ボルティモア大司教区はキリスト教の教えを破ってまで何を守っているんだろう。普通の企業だってここまでしないよ。

 

この作品を見ていて思い出したのは、女性を殺害し川に捨てた神父が、自分が犯した殺人を同僚の神父に「懺悔」したものの、同僚神父は神から赦されたと判断し、告白を聞いた神父も警察に通報することもなく迷宮入りした事件。殺人を犯した元神父は事件から数十年後、80歳近くなってから逮捕された。(時効にならなくてよかった)

彼らが社会の中で生きている以上、間違ったことをしたら社会のルールに則って罰せられるべきだし、それを聖職者自身も理解するべき。個人の信仰と社会の規則とは必ずしも同じじゃない。

 

それにしても、どうして教会関係の事件っていつも性的虐待なんだろう。

少し前にバチカンでの奴隷的扱いをシスターが告発したニュースもあったけど、キリスト教って一般的にトップ(神父)はいつも男性、世話係はシスター(女性)だし、女性蔑視的な体質があるのかもって思ったり。(女性ばかりが被害者とも限らないけど)

 

 

まとめ

誰も裁かれないけど被害者の辛さは痛いくらい伝わってくる。とにかく胸糞悪い事件。

立場や権力を失いたくない誰かのために殺された人がいて、正しいことをしようとしている人ばかりが辛い思いをしているような気がして、悔しくてしょうがない。

 

 

教会関係者の話が多いけど、今作に出てくるもう一人の被害者ジョイスを忘れちゃいけないと思う。妹のために、おじいちゃんになっても必死に真実を追い続ける兄弟達がいつか報われて欲しい。

今作のインタビューで人一倍精力的に事件を追っていた兄ドナルドが、真実を知らないまま今作公開前に亡くなったことを思うと、少しでも早い解決を心から願います。

 

途中で見るのを辞めたくなるくらい辛い内容ではあったけど、最後までちゃんと見てよかった。耳の痛いストーリーほど、私たちはしっかり向き合うべきだと思う。

 

 

評価

 

☆星 4.8 個☆

 

 

※衝撃的な内容だけど、心に響く。

※多くの関係者のインタビューが登場し、製作者の熱意を感じた。辛い記憶を呼び覚ましてまで事件について語った被害者の勇気を称賛したい。