探偵Lの映画ブログ

カナダ在住の映画&ドラマオタクが探偵気分で映画をレビューするブログ

Netflix『我々の父親』DNA検査により明らかになった、ある不妊治療医の恐ろしい真実を暴露するホラードキュメンタリー。

またやってくれましたね。
やっぱりネトフリのドキュメンタリーは好きだなぁ

こういう暴露系はどんどんやってほしい!笑

 

ちょうど今、アメリカで妊娠中絶の違法化について注目されていますが、このドキュメンタリーの不妊治療医が同意なしに自分の精子を患者に使う行為については違法性を問うことさえ難しいという。(怒ワナワナ)

 

この事件、聞いたことはあったけど被害者がここまで多いとはびっくり。そして、こんなに小さなコミュニティーで、こんなに多くの被害者がいることもさらにびっくり。

 

似たようなケースで、実はすでに44人の医師が同様の告発をされていて、研究者としての好奇心とか、そんな言い訳もありそうだけど、そもそも患者に尽くすための仕事である医者がその立場を濫用した、反道徳的なこの事件。

普通の思考回路なら、コミュニティーに対しての将来的なダメージ(濃すぎる血縁とか)の可能性を簡単に予想できたはずで、医者のエゴ以外に考えられない

 

ここまで傲慢になれる人間がいて、しかも本人の思惑通りほとんど罪に問われない。

観終わったらきっと怒りでワナワナしてしまうけど、ずっしり思うて考えさせる良作です。

 

 

あらすじ

精子提供によって生まれたジャコバ・バラード。ある時、彼女はDNA検査キットの結果から自分に異母兄弟がいることを知る。しかし、その数は7人と母が当時同意した3人をはるかに超える数だった。

お互いの存在を知った異母兄弟たちは、調査を始めるうちに恐ろしい真実を知ることに。それは、自分たちの親の不妊治療を行った医者ドナルド・クラインが、同意無しに自らの精子で何人もの女性に受精を行っていたというものだった。

クラインの元で同様の不妊治療によって産まれた子供の数は、わかっているだけでも100人近く。今でもそれを知らずに生活している子供達は多く存在する…

 

監督

ジェイソン・ブラム

公開間近の『ブラック・フォン』のプロデューサーも務めるホラー映画監督。

今作でも、ドナルド・クラインのオフィスを再現した気味の悪いデコレーションや、聖書の引用を、ホラーの目線でダークに描いている。

 

はい、このドキュメンタリーはホラーを超えたホラー作品です。

 

感想

DNAの時代

精子提供とか不妊治療もそうだけど、DNAチェックを市民ができるようになったのはここ数年の話で、このDNAキットを使って実は自分が母の不倫相手の子供だったなんて話をニュースで見たりしたこともあったけど、これはもう別次元。

視聴者側が怒りで言葉を失うぐらいだから、本人たちの憤りは計り知れないわ。

 

この事件の恐ろしいところは、その不透明さ

事実はDNA検査をしない限りわからないということ。しかもそれを医者はわかってやってるのよ。それ以外考えられないでしょ。

 

はい、キモイ。

被害者にとっては、正直知らなくてもよかったし、知らない方がいいはずの事実ではあるんだけど、一番危険なのは知らない間に兄弟同士で結婚していたりすることが危険だからだけど、自分だったら知りたくないかも。

それをした医者にとっては一瞬のことでも、子供達にとって自分の人生とアイデンティティーだけじゃなく自分の家族全員を奈落の外に突き落とす破壊力がある。

 

インタビューに出てくるのは半分以上が俳優さんだけど(本人として出たヒト勇気あるよ、ほんとに。)それだけでも多くの被害者がいることがよくわかるし、本人達に関してはみんな見た目もよく似てる。ジャコバを始め、被害者本人達の苦しみが表情から伝わってきて辛かった。

 

子供が産まれてしまったら(そしておそらくその後数十年間もしくは死ぬまで)疑いもせずに普通に生活することになるんだけど、今作の子供達のように遺伝的な健康障害が現れたり、なぜ自分は父親に似ていないんだろうとか考えたりして、それが最悪の形で現実になってしまうのよ。。。

 

宗教?

これは本人じゃないよ、役者さんだよ。


クライン医師については、キリスト教(の超極端な宗派)の「多くの子供を持てば持つほど、男性(⇦ここ重要笑)は神に近づける」という考えのもと、この行為をおこなっていたともいわれているけど、どちらにしても医者(しかも産婦人科)になるには危険すぎる人物だったわけ。

 

ちなみに、同様の考えを持つモルモン教系のカルト集団を描いたドキュメンタリー『キープ・スイート:祈りと服従』は、少しこの医者の狂気に近いところもあるから気になる人は観てみてください。(後日レビュー書くかも!)

こういう極端な思考の問題って、”宗教”という言葉では割り切れないのですよ。もう普通のモルモン教の人達には理解できない世界であって、宗教のせいとも言い切れないと思うのですよ。

 

ただ、クラインのように医師として評判も良く教会にも貢献しているシニアって絶対的な信頼を持っていて、彼をサポートする人たちの中には、今までずっと信じてきたクラインという人物を今更否定することで、彼と関わってきた自分の評判まで落ちるんじゃないかと思ってる人もいると思うの。

アメリカの教会って絆の強い地域のコミュニティーであって、そういう力がある。

 

だけど、「ならあなたの妻や姉妹、娘を彼に診察してもらったらどう?」ていう被害者の言葉に強烈な説得力があって、画面の前でブンブン頷いてしまった。笑

 

まとめ

正直、被害者が生まれた当時はDNAの確認なんてしようがなかっただろうし、むしろ両親も医者を信じて自分の子供or伝えられた通りのドナーとの子供だと信じて疑わなかったはず。

特に胸が痛かったのは、クライン医師の友人(か同僚)の妻が被害者になってること。私が夫だったらもう怒りでおかしくなるだろうね。

 

被害者ジャコバとの電話の録音でクラインは、自分の評判や自分の夫婦仲の心配しかしていないし、子供達を前にしても銃で脅したり、一人一人の健康状態や職業をジャッジしたり、ひたすら自分のことしか考えてない。

 

銃を持って現れるとか、この人自分が悪いことしてるのわかってるわけよ。笑

それを裁判所(裁判までにもものすごい時間かかるわけだけど)が執行猶予1年で終わらせてしまったことが一番恐ろしい。

 

残念ながらこういう事件は、今後もっと多くの訴えが出てくるんじゃないかと思う。

不妊治療ってここ数年でもかなり人気で一般的な治療になってきていて、子供が欲しくて仕方ない親たちと、とにかく結果を出したいと願う医師達の存在が、こういう事件を産んでしまう可能性は大いにあると思う。*1

 

理由は宗教か、エゴか、出来心か、もしくは精子ドナーを見つける手間と費用を省くためだとか、さまざまだとは思うけど、どちらにせよ国や法的機関も早急に考え始めた方がいいと思う。

 

髪の色や目の色、人種の多様性があるアメリカだから「あれ?」と思う可能性があったとしても、ほぼみんなが黒髪で黒い目、明るい肌色の日本だったらどう?

そもそも疑問すら生まれないんじゃないだろうか。きっと両親も子供ができたことが嬉しくて、何も心配いらないと思うだろう。恐ろしいことに。

 

「不妊治療なんてするから」「精子ドナーなんてもらうから」っていう被害者バッシングもあったみたいだけど、ヒトが進化を望み化学や医療が発展していく限り、それに伴ってマインドも変わる必要が出てくるわけで、クラインのような”悪”を止めるためのスピードもアップして行かなきゃいけないんだと思う。

それを個人が気に入ろうが気に入らまいが、そこは重要ではないのよ。

人生をぶち壊された被害者がいるわけだから。

 

この人の裁判でも、問題になったのはクラインが国の規則を破っていることであって、被害者家族や彼らの人生が壊されたことではない。

同意なく患者に自分の精子使った医者は実刑無しで、女性の中絶は違法って、どんな社会だよ。(怒りワナワナ)

www.nikkei.com

*1:確か日本でも少し前にこんな事件あったと思うんだよね。その医者は子供を欲しがっていた患者のためだったとか言ってたけどさ。それを自分がどうにかできると思ってるところがエゴなのよ。