探偵Lの映画ブログ

カナダ在住の映画&ドラマオタクが探偵気分で映画をレビューするブログ

Netflix『ガードナー美術館盗難事件〜消えた5億ドルの至宝〜』盗品は見つかってないのにFBIが解決宣言している謎の事件

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犯罪ドキュメンタリーは色々観てるけど、特に美術品の盗難事件って引き込まれるものがある。

多分誰かが傷付いたり殺されたりしなくて、警備万全な超高級美術館から有名な美術品を華麗に盗む(ルパンとかカルメンサンディエゴみたいな)っていうことに、なんかロマンみたいなものを感じるんだと思う。

 

美術品の窃盗事件と聞いて、私と同じイメージを持ったことがある人には今作を観てみて欲しい。人間のお金と汚い欲のために、歴史的な美術品だけでなく実際には何人もの命が奪われていて、現実では怪盗ルパンみたいなロマンは一切無いんだってことを痛感させられるはずだから。

 

この事件、実は数年前に聞いたことがありました。

情報源はYouTubeのBuzzFeed Unsolvedチャンネル。

www.youtube.com

この動画観たのもう数年前だけど、当時は美術品コレクターが仕組んだプロの窃盗団による盗難事件だと思ってました…

 

  

事件について

アメリカ・ボストンにあるガードナー美術館で、1990年3月18日未明に盗難事件が発生。

警官に扮した2人の男たちにより、レンブラントやフェルメールの作品13点が盗まれた。犯人達は81噴火けて5億ドル(約560億円)以上に上る美術品を盗み出し、世界最大規模の美術品盗難事件として知られています。

このドキュメンタリーでは、関係者のインタビューを元に当時のボストンで暗躍していた犯罪組織とこの事件との関わりに迫っています。

  

〜ここからネタバレあり〜

 

高級美術館…じゃない!?

ガードナー美術館。名前しか知らなかったけど、超有名な作品が数々盗まれたって聞いて「ルーブルみたいなゴージャスな美術館なんだろうなぁ」と思ってた。が、このドキュメンタリーで実際の建物を見てびっくり!!

実際のガードナーは想像よりずっと小規模で、美術館というより古い個人の洋館みたいな建物。素人が見ても簡単に侵入可能に見える造り。笑

 

あんなに有名で高価な美術品が普通(に見える)の棚に無造作に置かれていたり、リビングルームみたいなところにランダム(に見える)にかかっていたりするのを見て、これは狙われるだろうな、と。笑

 

作中でも言われていたように、創設者(イザベラ・スチュワート・ガードナー)の意向もあってか展示施設というよりは誰かの家で美術品を見て回るようなスタイルの美術館で、その雰囲気はとても自然で素敵なんだけど、その分温度や湿度も到底管理出来てるようには見えなかった。作中で当時の館長は改善したって言ってたけど、建物の造りからして難しそう…

 

ちなみに、2000年代に入ってから複数回増設工事がされているので、ドキュメンタリーで見られる外観は事件当時と同じでは無さそう。

 

美術館の警備

事件当時の夜勤警備員2名はテープで縛られて発見されるも、その中の一人リチャード(日頃から勤務態度が悪かったバンドマン)は事件前の不審な行動から犯行との関係を疑われる。

 

犯人が警備員を生かしておいた理由も謎だし、リチャードも変わり者だから怪しく見えるんだけど、警備についての情報を知ってたのは彼だけじゃないだろうし、事件前日の深夜になぜか警備室を訪れているチーフの方が私は怪しいと思った。

 

今作では語られてなかったかもしれないけど、盗難が起きたのは美術館のセキュリティ改善工事の1週間前だったらしい。泣

この事実だけ聞いても、内部に協力者がいた可能性は高そう…

 

 

ずさんな捜査

当時のFBIと地元警察との関係はよろしくなく(元FBIのインタビューはいっぱいあるのに、ボストン警察のインタビューは一人分しかないし)、目撃証言や証拠が共有されないなどのトラブルがしょっぱなから起きていた。

 

そもそも当時のFBIには美術品盗難についての専門部署がなく、この事件も誘拐・殺人などを担当する捜査官によって捜査されていた。FBIは、当時のセキュリティ会社との情報共有も出来ていなかったみたいだし、最初からぐだぐだだった模様。

 

ボストンのマフィア事情

ボストンのマフィアの存在がこの事件の焦点だと思う。

マフィアもは実際、犯罪でお金を儲けるコーポーレーションみたいなもの。命がけの危険なビジネスだから、戦略として交渉材料になる「名画」を警備の甘いボロ美術館(失礼)から拝借して保険にしておこうっていうのはある意味賢い選択かも。

 

他にも、アイルランドの武装組織IRAが武器の購入の担保にしていたのではという疑いもあったけど、そこはあまり深く掘られず…美術品の一部が渡った可能性はあるかも。

 

美術品の価値とは

そもそも、美術品って話になると「ピカソの絵が○億円で売れた」とか「○億円相当の美術品が発見された」とか、その金額的な価値ばっかりが目に入ってくるから、素人には「こんだけ高いんだからとにかくすごいんだろう」ってことしかわからない。(それが狙われる理由でもあるんだろうけど。)

 

今回の事件はお金目当てで、マフィアが犯人だとして、これだけ有名で芸術的価値のあるものを大胆に盗んで、その後の処理(売り方)に困るってことを当時の彼らは考えなかったんだろうか。命がけで盗んだのに売れないから大きな報酬ももらえず、結局揉めて仲間内での殺し合いになってしまったのかも…

 

あと、美術館関係者(特に元館長のおばちゃん)が熱心に盗品がどれだけ価値のあるものか力説してたけど、だったらなぜもっと厳重に保管して置かなかったんでしょう…と言いたい。笑

 

 

勝手に捜査官【a.k.a 個人的な見解と推理】

マフィアが犯人説

今作ではこの説が最有力とされてる。

 

 

ドキュメンタリー内では一切触れられてないけど、当時のFBIや地元警察にもマフィアの協力者がいた可能性もありそう。FBIが解決宣言をしても犯人を公表してないのは、自分たちの汚職が絡んでいるからかも!?

犯罪組織と警察との癒着はどの国・時代でもあることだし、マフィアも保身のためにスパイの一人や二人抱えていたとしてもおかしくない。むしろ、このドキュメンタリーで次から次へとマフィア組員の名前は上がってくるのに、誰もこの事件関連で逮捕されてないっていうことも不思議。

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盗難に関わったと思われるマフィア達

FBIのやり方も怪しいけど、2019年に釈放されたマフィアの生き残りターナーがとにかく怪しすぎる!!

釈放についてはおそらくターナーが司法取引を持ちかけたんだろうけど、彼以外の関係者(と思われる人達)はほぼ全員死んじゃってる(死人に口無しとはこのこと)から、都合よくみんなに罪を被せて、「何十年か前にこの人がこの人に売ったけど、そのあとは分からない」みたいなことを当たり障りなくFBIに情報提供して釈放されたんでしょう。きっと自分以外が死ぬまで待ったんだろうね。なんてずるいやつだ。

 

『アイリッシュマン』でも思ったけど、マフィアってほんとに親友でも家族同然でも保身のためには殺すか殺されるかっていう関係性なんだよね。命の重みゼロ。こわし。

 

個人の犯行説

当時、まっ先に疑われたのは地元の美術品窃盗犯マイルズ・コナー

が、彼は事件当時服役中で実行不可能。

 

ただ、彼はボストンのマフィアと繋がりがあって犯行を陰で手助けしていたのではとも言われているし、その可能性は高いと思う。どちらにしろマフィアに美術品が警察・FBIとの交渉で役に立つっていう入れ知恵をしたのは彼でしょう。

 

マイルズの現在は、当時ミュージシャン&強盗として注目されていたとは思えないビールっ腹のおじいちゃん。もはや跡形もなくなってた…

 

 

 

まとめ

美術品の盗難って聞いて、怪盗ルパンみたいなかっこいいイメージを勝手に抱いていた自分のナイーブさよ。このドキュメンタリーを観て、この事件はむしろ美術品としての芸術的価値を完全に無視したマフィアによる完全自己中な動機だったことがわかってすごーーーくがっかり。

 

私には美術品について語れるほどの知識は一切無いけど、今作の中でレンブラントの作品を見てその美しさに感動したし、この作品が全く芸術と関係のない理由で利用されているってことを腹立たしくさえ感じた。まだアンダーグラウンドのコレクターに盗まれたって方が芸術品も報われるってもんですよ。

 

番組の最後で日本にあるとかヨーロッパにあるとかいろいろ言われてたけど、盗まれたのはもう30年近く前のことだし、そんなに簡単に美術品は戻ってこないと思う。

 

当時の美術館の管理状況や警備状況から諸々考えても、この盗難事件はある意味管理者にも責任はあるだろうなと。もちろん盗む人が一番悪いんだけど、当時の状況(美術品の価値が上がっていた状況)を考えれば、保存状況もセキュリティも改善の余地がいくらでもあったはず!!

 

2013年のFBIの「解決宣言」は、おそらくもう絵の居場所は(転売されまくって)誰にも分からないけど、FBIが知りたい情報はターナーがくれたからもう解決ってことにしちゃえっていう強引な判断だったようにも感じる。

 

当時盗みを計画したマフィアメンバーはもう高齢だったり亡くなってたりするし、有名な作品ばかりだから逆にどうすればいいかわからず、盗品の一部は個人のガレージに仕舞い込んでたりするんじゃないかと思う。保存状態にもよるけど、きっと絵画はボロボロになってるんだろなぁ…

この先数十年の間に「監査に入った豪邸で発見!」とか「祖父母の家の屋根裏部屋で孫が発見!」とか、そんなニュースが入ってくるかもしれませんよ。笑