久々に実話作品の深掘り記事書きました!!
この、鎮痛剤(ペインキラー)として売られていた麻薬が引き起こした悲劇は、オピオイド禍もしくはオピオイド危機と言われ、アメリカじゃ非常に有名な話です。
パーデュー社とオーナーで資産家のサックラー家のことは、多くの人を依存症にして死に追いやったけど最後まで一家の人間は一人も実刑を受けなかった「アメリカで最も嫌われている一族」として聞いたことあったけど、今作ではその”悪さ”があんまり伝わらなかった気がする。
それくらいひどいのよ、この事件。
ドラマは、開始20秒でもう泣ける。
各エピソードの最初に被害者遺族から一言があったことで、このオピオイド危機のリアルさが一番感じられた。もちろん、現在も日々依存に苦しむ患者は多くいて、オーバードーズで亡くなる患者は後を絶たない状況が、今この瞬間にも続いています。
今作の共同脚本家は、プレスノートでこう話しています。
オピオイド危機は、ハリケーンや洪水のように、ただ起こったことではない。
甚大な利益を得ようとする企業によって作り出されたものだ。私がよく耳にするこのオピオイド危機は、単なる危機ではなく、まさに犯罪なのだと気づいた。
そして、サックラー家の判決については
我々は、ドラッグを路上で売る売人は刑務所に入るが、ドラッグを製造・販売する腐敗した企業幹部は刑務所に入らないような国に住んでいるのだ。
と語っています。
オキシコンチンという薬
薬の依存って聞くと、依存する人たちが悪いとか環境や家族が悪いとかって言われるけど、この薬オキシコンチンは、ヘロイン並みの依存性がありながら、”医者が勧める鎮痛剤”として扱われていたわけ。
大袈裟にいうと、バファリンだと思って飲んでた薬がヘロインだったってことかな。しかもこの薬は医者に処方されてるから余計にたちが悪い。
今作でも、追い詰められたパーデュー社は依存者に責任を押し付けようとするけど、現在欧米では、依存症は”病気”であるとされています。政府によって公式に。
アルコールや薬物の依存は、心の弱さや判断力の欠如のせいだと思われて依存患者や環境のせいにされがちだけど、依存症は依存患者の弱さやその家族の責任じゃない。
誰にでも起こりうる”病気”、つまり治療も可能であるということ。
ちなみに、オキシコンチンは日本でも処方されています。
ただ、末期のがん患者等、本当に必要な場合に限って。
世界中で手に入れることが可能な薬のため、アメリカの二の舞にならないよう慎重に扱う必要があると懸念されています。知らずに飲んでしまったら怖い。。。
依存被害者たち
オキシコンチンのような痛み止めを処方されたのは、事故等で後遺症を持つことになってしまった労働者やスポーツで体を痛めた若者など、本作のグレンや冒頭に出てくる実際の被害者達のように、体の痛みと戦いながらも少しでも普段通りの生活を送ろうと頑張っていた普通の人たち。
オキシコンチンなどの処方鎮痛剤の過剰摂取により死亡した被害者は、過去20年間で30万人以上と推定されています。
パーデュー社の営業は、かつて製造業が盛んだったエリア(要は田舎の工業地帯)を狙い、肉体労働で体を痛めた労働者をターゲットにし、その地域の医者を過度に厚遇して売り上げを上げていきます。
部活でスポーツをする学生にもオキシコンチンを処方していたため、多くの青少年も被害に遭っています。
昔、Youtubeか何かでオキシコンチンの依存患者が田舎の小さな病院に列作って、薬の処方を待ってる動画を見たことがある。その病院(クリニック)では一人の医者がひたすらオキシコンチンを処方して売ってるのよ。(今作後半のグレンが薬買った時みたいな。)
もはやその医者は”医師免許持ったドラックディーラー”で、病院では治療もなにも関係なく、お金のためだけに薬の供給してるの。ほんと恐ろしい。
事実と本作との違い
『ペインキラー』の脚本は、バリー・マイヤーの著作『ペインキラー』と雑誌ニューヨーカーのパトリック・ラデン・キーフ著の記事「ペインキラー」の2つに基づいています。
ちなみにオピオイド危機については、他にHuluの『Dopesick』、話題になったドキュメンタリー『Crime of the Century』(今作のエグゼクティブプロデューサーであるアレックス・ギブニー制作)もあります。
会社が経済的に危機的状況だった時に、利益の出る依存性の高い薬をあえて作ったことも、FDAの審査員を(おそらく)買収してのちに社員として雇ったことも、若くて綺麗な営業を大量に雇って強引な売り込みを医者相手に行っていたことも、全部事実。
製薬会社の営業って日本でも収入が良くて割と人気な職業だけど、製薬会社の営業職が医者相手に薬を売り込むっていう、よりビジネス的なこの営業モデルはリチャード・サックラーが確立したスタイルだと言われています。
ちなみに、パーデュー社を追うフラワーズ捜査官が話すクラックコカインのケース(ドキュメンタリー『13TH』にも出てきてた)では、黒人居住区をダーゲットに売買された非常に依存性の高い麻薬だと言われていて、売買や使用に関わったら(主に黒人たち)片っ端から収監されていた、人種差別的な薬物危機でした。
クラックコカインをこの作品で言及したことは、正しいコントラストだったと思う。
プロデューサーも言ってたように、まさに、「ドラッグを路上で売る売人は刑務所に入るが、ドラッグを製造・販売する腐敗した企業幹部は刑務所に入らない」ってこと。
登場人物について
パーデュー社の若手営業担当シャノン・シェーファーや、車の修理工場を営むオキシコンチンの依存被害者グレン・クライガー、オキシコンチンの捜査を始める米国検察庁の調査員イーディ・フラワーズは全て架空の登場人物。
だから実際は、一人の調査員が訴えた被害というより、被害者の訴えが徐々に大きくなって露呈したわけ。
パーデューと戦った被害者の父親についての、ネットフリックスのドキュメンタリー『ザ・ファーマシスト』もすごくいいので、おすすめ。
でも、サックラー家やパーデュー社の役員達を始め、結局最後には丸め込まれちゃう司法省のジョン・ブラウンリー(イーディーの上司)や、FDAの調査員カーティス・ライトは実在(実名)の人物です。
最後の砦だったはずのFDA調査員カーティス・ライトについても、相当やばい汚職・買収だけど、全て事実です。
パーデュー社に買収(おそらく)されてオキシコンチンを承認してから、2年後にFDAを辞めてパーデューに入社。 初年度の年収は40万ドル(約5千8百万円)だったらしい。こわ。
後半、追い詰められたパーデューが雇った弁護士にルディ・ジュリアーニ出てきて笑っちゃったよね。このも本当だけど、この人弁護士にしたらもう即”悪い奴”じゃん。笑
裁判の判決について
実際、ルディ・ジュリアーニを雇ったことでパーデュー社はワシントンとのつながりができ、当時の司法副長官で、のちのFBI長官ジェイムズ・コミーに申し立てをしたことで、公務員ブラウンリーに圧力をかけることができたってわけ。
アメリカでは、パーデュー社とそのオーナーであるサックラー一族に対して2000件以上の訴訟が提起されたけど、その和解・賠償に1000億ドル以上かかるため、その解決策として2019年にパーデュー社は会社の更生手続きを申請し、2020年には和解案に合意して有罪を認めていますが、主犯であるはずのサックラー家の人間への実刑は一切なし!!
50万人の患者が死んだ薬の裁判は、どれも汚職や陰謀にまみれた裁判だった。
サックラー家はあの手この手を使って、アメリカ中から嫌われても、直接責任を取ることから逃れ続けています。
一度も起訴されず、一切責任は取らず、ひたすら自分達の利益のことだけを考えて。
まとめ
このオピオイド危機は怒りと悲劇のストーリー。
賄賂と圧力で強引に薬を承認させたことはもちろんだけど、治療を必要とする患者から、絶対的に信頼されている医師の存在を利用して”ビジネス”をおこなっていたことが一番腹立たしい。
ほんと、今作では、この一件を引き起こしたサックラー家に関して、彼らの真の悪質さが感じられなかったかも。
リチャードにしか見えない妄想の叔父が出てきたり、パーデューやの幹部達やサックラー家をおバカなリッチ・ピープルとして描いていたりしたからかもしれない。
最後に、リチャードが妄想の中の叔父アーサーにボコボコに殴られるシーンがあったり、リチャードが孤独に階段を上がっていくシーンがあったりして、少しは代償を払ったように見えるけど、実際は全然そんなことない。
”上流階級の資産家サックラー家”の名声がボロボロになったことが、唯一のリベンジかもしれないけど、これだけ世界中から嫌われているんだから、当の彼らはもはやそんなこと気にしてないし、それが亡くなった30万人以上の患者の命には到底変えられない。
被害者の怒りと悔しさは計り知れないし、多くの若者が被害にあったことを思うと、この苦しみは何世代にもわたって続くでしょう。
少なくとも、オピオイド危機の悪質さが世界に広がることで、依存症患者への偏見がなくなればいいと思う。
ちなみに、今でも至る所にサックラーの名前が使われた美術館や施設が存在します。
あーーーー、胸糞な記事になってしまってごめんなさい(笑)