探偵Lの映画ブログ

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Netflix 『イノセンスファイル』 数十年かけて勝ち取った無罪。日本では?【勝手に捜査官&ネタバレあり】

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司法の基本である「疑わしきは罰せず」を今一度考えさせられるような内容。

悪気のない間違いで冤罪になってしまった人もいるけど、もはや意図的と思われる方法で有罪にされてしまった人の話は衝撃的。

 

 

絶対中立であるはずの司法なのに、明らかに、貧困や人種による差別が存在していることもを感じる事件が多数。

また、アメリカ(どこでも?)は警察や司法の力がすごく強いんだってことも思い知らされる。

 

 

重い事件がいくつも出てきて観ていて辛いシーンも多いけど、全エピソード見る価値ありです。

Netflixの犯罪ドキュメンタリーはどれもすごく勉強になるけど、今作は司法制度や検察に問題提起する攻めた内容。

 

 

 

 

 

 

概要

冤罪事件を調査するイノセンス・プロジェクトには、無罪を主張する手紙が山のように送られてくる。証拠の隠蔽、虚偽証言、権力濫用により無実の罪で投獄された受刑者達。無罪を信じる弁護士と受刑者、被害者、その家族の戦いを描くドキュメンタリー。

 

イノセンス・プロジェクトとは

1992年に発足した、DNA鑑定によって冤罪を証明する非営利活動機関。アメリカ合衆国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカで活動中とのこと。

英語版サイトはこちらInnocence Project - Help us put an end to wrongful convictions!

  

 

勝手に捜査官【a.k.a 劇中で語られない関連事項】

これを見て、日本はどうなの?DNAてどうやって調べてるの?とか気になったので、ちょっと調べてみました。 

ちなみに、日本にも「冤罪救済センターhttp://www.ipjapan.org/」が存在。今作に登場するイノセンス・プロジェクトをモデルに、2016年に始動したというかなり新しい機関。活動がまだ知られていないのもあるでしょうが、寄付を募りほぼ無償で活動しているようです。

 

 

日本の冤罪事件

日本では、起訴された事件の99%が有罪になることは有名な話。今作では無罪となるまでの長く苦しい日々が語られているけど、日本はそもそも再審になる確率が非常に低いため、無罪を主張し続けても見向きもされないというのが現状のようです。

個人的には足利事件が記憶に新しいですが、

 

 

免田事件

四大死刑冤罪事件の一つ。1983年に日本で初めて死刑囚が無罪になった事件。免田栄氏は殴る蹴るの拷問の末に虚偽自白をさせられ、23歳の時に逮捕されてから死刑囚として34年6か月間投獄された。

無実確定後、当時の死刑囚の中にも無罪を主張しながら処刑された人が何人もいたと証言している。真犯人は捕まっていない。

 

 

袴田事件

袴田巌氏は、30歳で逮捕されて以来45年以上投獄。(一時期「世界最長収監」としてギネス記録になっていたことも。無罪なのに。)取り調べで長時間の拷問を受け自供、死刑判決後はストレスで精神を病む。

2014年に再審開始となり釈放された後は入院生活を送っている。のちに再審請求が却下されたため、まだ無罪は確定していない。真犯人は捕まっていない。

 

 

今作中にも30年以上投獄された人が出てきてびっくりしたけど、日本の冤罪受刑者はギネスに載っているなんて!

多くの事件が時効になっているため、真犯人探しも行われず。何件か真犯人が見つかるケースもあったけど、ほぼ全てが真犯人の自白によるもの。犯人が自分から言い出さなければ一生逃げ切れるってこと。なんてこと。おそろしや。

 

 

DNA鑑定について 

今作で無罪を証明するために使われる切り札、DNA鑑定。

日常生活では、どんなに気を付けていても事件現場や被害者の体に残された犯人の血液、毛髪、体液、皮膚片などを元にDNAを調べるもの。

日本の捜査ではまだDNAを証拠として鑑定することは稀なようですが、再犯の多い性犯罪の減少には役立っているらしい。(日本は献血とかからDNA取ってそう。笑)

新しい分野ではあるものの欧米では犯人を絞り込むための確実な証拠として注目されています。

 

 

DNAの情報元

犯罪捜査で使われるDNAの情報の多くは、近年流行している「DNA診断」から得ているものだとか。200ドル程度のキットを注文し、綿棒で口の中の粘膜を採取して鑑定機関(特に有名なのは”23 and me”というカリフォルニアの会社)に送ると、自分の先祖のルーツやかかりやすい病気などを調べて結果を送ってくれるというもの。自分のDNAを調べるのと同時に、犯罪捜査の役にも立てるという。(が、裏もあり。*1

 

 

DNA鑑定が解決した事件

近年、DNA鑑定により多数の連続殺人犯の逮捕に至っています。

 

  1. ゴールデンステートキラー【44年間逃げ続けたカリフォルニア州の殺人鬼。被害者は50人以上にのぼる。】
  2. エイプリルちゃん事件【30年間未解決だった女児誘拐&殺人事件。事件後も警察を嘲笑する落書きやメモを残して挑発した。】
  3. BTKキラー【30年以上逃げ続けた殺人鬼。20年近く犯行を続け地元住民を震え上がらせた。】

 

などなど… 

 

短時間でもその場にいれば、どうしても残ってしまうDNA。近年のDNA鑑定の発達で未解決事件の犯人はいつ捕まるか震え上がっていることでしょう。笑

過去にDNAの取り違えで無関係の人々を巻き込んだ例もあり、絶対的な信頼があるからこそ慎重に扱うべき分野だと思う。

 

 

 

感想【ネタバレあり】

それぞれのエピソード観た後、悲しさとイライラで言いたいことはいっぱいあったけど短めにまとめたつもり。(汗) 

 

 

証拠

エピソード1〜3

子供が被害者の事件って本当に最低。

冤罪になった人たちはもちろんだけど、正しいと信じて何十年も必死で研究して来たことを「ジャンク・サイエンス」扱いされる法歯学者も悲惨。世界的に有名だった自分のキャリアを全否定されて感情的になるウェスト博士の気持ちわかる。長い時間をかける研究者達はすごいと思うけど、科学って確実なものに見えて実は不確かな一面もあるんだってことを気付かされた。今は当然のように使われてるけど、将来同じように見直される鑑定方法が出てくるかも。

 

正直、ここで使われてるDNAも間違ってましたってことが将来あるかもしれないし。笑

 

後半の事件のキース氏は、33年間も収監されたのにジョークを交えてインタビューに答える気丈さがすごい。ルヴォン氏みたいに諦めちゃう人もいっぱいいるはず。何も信じられなくなって当然。インタビューを受ける痩せ細った姿は見てて辛かった。これだけの目に遭って、やっといるべき場所に戻れたのに、癌なんて。フェアじゃない。

 

 

目撃者

エピソード4〜5

ギャングが絡んだ事件なのに、亡くなったのは全然関係ないお父さんだったってしまうのが悲しいケース。

良かれと思って証言した目撃者の若者も、実は警察に誘導されてたという。担当警察官はやたらエゴが強そうな人だったけど、子供相手に悪意しか感じない。ギャングが多い地域で警察がギャング化してたっていうのも皮肉な話だよね。

 

容疑者は、母親がいなかったから遊ぶ時間を削って(事件があった)週末の夜も家で家事をしていたのに、「遊び盛りの若者が金曜の夜に家にいるはずない」て弁護士に言われたのが辛かったって言ってるシーンが悲し過ぎた。お父さんのアリバイ証言も信じてもらえないっていう八方塞がりの中、信じてくれる人たちが見つかって良かったー。

それにしてもフランキーさんやたらイケメン。笑

 

エピソード6

どんな事件でも最初に目撃情報が求められるし、1番くらい重要だと思ってたけど、本編の女性のように一生懸命記憶しようとしたって間違えしてしまうんだから、脳ってつくづく信用出来ないんだと実感。目撃者の勘違いはともかくアリバイとか無かったのかな。

カナダに数年住んでやっと白人さん黒人さんの顔が認識出来るようになったわたし自身、人種の違う人の顔は認識しづらいっていうのは実感がある。

「この目で確かに見たんだ!」みたいな人間の記憶力への信頼性が一気に揺らいだ。笑

 

どちらの事件も容疑者のアリバイは一切信用されず。なぜ?

この事件については、被害者の目撃情報を信用しすぎて容疑者のアリバイとかが完全に無視されてた気がする。

被害者が白人女性だということもあって、黒人容疑者を早く捕まえなきゃいけないっていう人種差別的な世論が犯人逮捕にもプレッシャーを与えたのかも。

 

 

検察

エピソード7

"Wrong place, wrong time"とはまさにこのこと。

キムタクの『ヒーロー』を見たことがある人は、検察官は「被害者の味方=正義の味方」というイメージが強いと思う(というかわたしがそう思っていた)。

その分、被害者のために誰かしらを捕まえなきゃいけないプレッシャーもあるだろうけど、実際に捜査をする警察と検察は同サイドで動いてるんだから、警察を信頼して情報を受け取る弁護側とは平等とは言えないんじゃないだろうか。

 

冤罪事件のほとんどは検察の隠蔽が原因だという話もあるらしい。

結局裁判は勝ち負けの世界で、事件の当事者の人権よりも司法サイドの利益やエゴが優先されることって絶対あるはず。当事者は誰を信用すればいいんだろうね。

あの女性検察官が見直さなかったらまず無理だったであろう事件。

 

余談だけど、被害者と一緒にいた目撃者が日本人留学生という偶然!

それにしてもチェスターさんやたらイケメン。(2回目)

 

 

エピソード8

正直、このエピソードが一番辛かった。馬に「のんき」って名前を付けるドウェインのピュアさと、死刑囚当時の生活を語る彼の悲しげな瞳よ。泣く。

いい弁護士さんに出会えてよかったね。

 

彼の裁判には理不尽にも程がある。完全に検察の思いのままに操られてしまった事件。

警察は同僚を殺した犯人を見つけたいはずなのに、結局犯人を捕まえることよりも誰かを死刑にすることに必死になって、本質が見えなくなってしまったんだろうか。

 

貧困と偏見の中で一生懸命生きてるだけなのに、自分ならどうするだろうと考えてしまった。

この件の検察官ダン・リッツォは誰一人のためにもならないことをしてるって自覚あるんだろうか。結局真犯人も分からないまま(ジュベールは犯人を知ってるんだろうけど)。これじゃ被害者も報われない。

 

 

エピソード9

被害者の供述テープがリアル。犯人がどんなに残虐だったかがよく分かって、超不快だった。

 

正直、あのマグショット(犯罪顔写真)だけ見たら絶対ケンが犯人だって思ったと思う(ごめんなさい)。目を見開いた彼の写真は狂気的で怖かったし。でも、何の前触れも無く逮捕されて何がなんだか分からないまま警察署に連れて行かれ恐怖と困惑の中にいた時に、まともな顔で写ってるわけないよ。笑

 

しかも、過去にちょっと警察を怒らせたからって復讐された可能性も考えると怖いね。

あとは、元恋人とは円満に分かれましょうってこと。笑

 

 

『検察』の章について

『検察』の章を見て思ったのは、検察官は一体何を求めているのかってこと。実績・キャリアのため?プライド?

被害者のためにしているとは到底思えないような捜査方法ばかり。正義のためという使命感が、いつしか実績を上げることへの執着に変化してしまったんだろうか。

 

エピソード8の最後に「アメリカで検察の不正が約1万6千件発覚していて、処罰があったのはそのうち2%だけ」ていうの見て、そりゃ誰が逮捕されても、死刑になってもどうでも良くなるわ。次の日にはまた新しい事件を扱うんだから、とにかく自分の実績として残ればいいやって。

人間のエゴって恐ろしいわ。

 

 

まとめ

ある日突然降りかかる、誰にでも起こり得る、災難。

ドラマみたいな話だけど、現実だったら全然笑えない。地獄。全部が理不尽。なんでこうなった?ていう。

それに、冤罪の被害者はやっぱり有色人種や不遇な環境で育った人が多くて、悲しいことに差別や偏見が招く結果でもあるような気がした。

 

どれも最後はハッピーエンドなストーリーだけど、実際の闇は深い。

どの事件にも差別や偏見、汚職が絡んでいて、一つ一つの事件が解決しても、司法が我が責任を取ることもないし根本が変わることが無い限り、残念だけどこういう事件は減らないだろう。

 

それに、ここで登場するのは時間が経っても諦めずに頑張って来られた強い人達。奪われた数十年を糧にして、これからまた新しい人生を生きようって気力がある人達。実際はそんな人ばかりじゃないと思う。希望も無くして精神的に疲れちゃう人の方が多いよ、多分。無実になっても仕事が見つからなかったり、獄中での精神的ショックが癒えなかったりして、その先の人生にも影響が出る人いっぱいいるだろうね。

今作の人達も、みんな若い時に逮捕されて人生のピークを奪われてる。そんなに簡単に許せないよ、普通。

 

3つのテーマの中でも『検察』の事件が一番やるせない。絶対に防げたはずの冤罪。

アメリカの裁判はいかに陪審員を説得出来るかが要で、特に科学的な証拠について専門家が証言したり目撃者の証言を聞いたら、一般人である陪審員はそりゃ彼らを信用するはず。

何も知らない一般人を騙して不正な判決を出させているってことが問題だと思う。

 

こんな事件があると、真面目に仕事してる人が気の毒。

でも、Netflixで世界的に汚職を公表され、名前と顔を晒された警察官や検察官は退職後の隠居生活にも大きな影響が出ることでしょう。笑

 

それに引き換え、弁護士がヒーローとして描かれているのが今作の特徴。正しいことをしているわけだから今回のドキュメンタリーはイノセンス・プロジェクト(弁護士団体)のコマーシャルと言っても過言では無い。笑

  

今作中、多くの事件で不動の証拠として使われるDNA鑑定。DNAを証拠にした捜査は画期的だし、これで未解決事件が解決する日が来るかもって思ったらワクワクするけど…

例えば知人が殺されて、たまたま当日被害者に会ってて、動機もあって、犯行時刻にアリバイは無くて「犯行現場であなたのDNAが検出されました。」とか言って逮捕されるなんてこともあり得るのでは?

そう考えたら怖すぎる。これがまた冤罪を作り出す材料にならないといいけど、とちょっと思ったのでした。

 

 

 

評価

 

 

☆星 4.8 個☆

 

 

※司法の悪をかなりオープンに名指しで暴露。

※インタビューベースで経験者の話がすごくリアル。

*1:DNAを受け取った鑑定会社はその情報を企業に売ったり遺伝子実験に利用したりすることが出来てしまうとか。