探偵Lの映画ブログ

カナダ在住の映画&ドラマオタクが探偵気分で映画をレビューするブログ

Netflix 『本当の僕を教えて』 幸せな嘘と悲惨な真実、あなたならどちらを選ぶ?

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ここ最近ずっとオススメに入っていた今作。

興味深い予告編に期待値も高く、いつかじっくり観ようと思っていた。

 

 

中年になったマーカスとアレックスの双子が、暗い過去に向き合うドキュメンタリー。

マーカスはこの作品を「この映画はラブストーリーだ。」と言っていて、悲しい内容ではあるものの兄弟の愛を強く感じる作品。

 

 

ナレーションもなく、静かに語りかけるような雰囲気に引き込まれました。

大袈裟な演出はないけど、二人の表情や言葉が心に刺さる。

作品を観ながら色々な感情が頭をよぎるはず。

 

 

 

概要

18歳のときにバイクの事故で記憶喪失となったアレックスが覚えていたのは双子のマーカスのことだけ。自分の名前も両親のことも思い出せないアレックスは、ものの使い方や家でのルールなど全てをマーカスから教わることになる。

マーカスはアレックスのために幼少期からの思い出話を聞かせるが、そこには隠された辛く悲しい過去があった。

 

 

 

〜ここからネタバレあり〜

 

 

 

 

感想【ネタバレあり】

 

 

彼ら双子だけど、18歳年の離れた兄弟みたい。

マーカスは何かを越えてきた大人のような表情をしているけど、アレックスは見た目は中年なのにどこか少年のような面影を感じる。

 

 

アルバムをめくりながら思い出話を聞いているような始まりからは想像出来ないダークな展開。

劇中に何度か出てくる同じ写真も、ストーリーが進んで行くにつれて見え方が全く変わってくる。写真の中の笑顔から、当時の二人の苦しみや両親の本当の姿なんてわからない。

 

 

「写真に残るのは良い思い出だけ。」「それがあれば十分だと思った。」

マーカスの気持ちが痛いほど分かる。自分だって同じことしたと思う。何も知らない唯一の兄弟に「あ、ちなみにうちの両親最低だよ!Welcome to hell !!!!」なんて言えない…

 

 

あの事故でアレックスは記憶を失い、マーカスは唯一の理解者を失ったんだと思う。

「理想の思い出」を語ることで気を紛らわすことは出来たかもしれないけど、一緒に乗り越えてきた苦しい過去を今度は一人で背負うことにもなったマーカス。

思い出が無いのも悲しいけど、辛い思い出を一人で背負うのも悲しい。

 

 

マーカスの 「”普通”ってその人の育ってきた環境のこと」っていう言葉がすごく頷けて、マーカスに守られて「理想の”普通”」を信じて育ったアレックスの新しい生活は、少なくとも怒りと苦しみの中生きてきたマーカスより幸せだったんじゃないだろうかとも思ったり。

 

 

個人的には全編を通してマーカスの肩を持ちがちだったけど、アレックスが自分の身に起こった事実を知らないで生きる辛さもよくわかる。

その思い出に人生丸ごと変えてしまうほどの威力があるとしても、マーカスが一緒に苦しんでいたことなら尚更、いつかは知らなきゃいけない。

 

 

アレックスは自分のために本当の過去を知りたいように見えながらも、苦しみを一緒に受け止めることで今度はマーカスを支えたい気持ちもあるんじゃないかって勝手に思った。

 

 

劇中で流れるマーカスの告白映像はおそらく実際の10分の1くらいなもんで、実際はもっと悲惨な内容をアレックスに共有したんだと思うけど、もう少し作品の中で詳細を語っていたら(もちろん彼のプライバシーは尊重したいけど)もう少しラストに重みが出たとは思う。

 

 

虐待は人生を滅ぼす。

同じくNetflixのドキュメンタリー『キーパーズ』で、80歳を超えたおじいさんが幼少期に受けた性的虐待について泣きながら語るシーンがあって、時間さえ癒せない心の傷の深さを痛感する。

 

 

辛い過去の共有に時間はかかったけど、マーカスには実際にそれだけの時間が必要だったんだろう。

話すのも、考えるのも、思い出そうとすることさえ辛い記憶。特に、親に虐待を受けた人は素直に恨めなかったり摘発出来ないことで悩むことも多いって聞く。

 

 

幼児虐待の被害者が生涯苦しむトラウマの深刻さにも胸が痛くなったけど、辛い過去を一緒に背負って行くアレックスの覚悟にも兄弟の愛を感じる感動作だった。

 

 

まとめ

 

☆星 4.5 個☆

 

※作品全体の雰囲気が素敵。

※とっても考えさせられる。